~オリーブの香り~ No 246『地は主の恵みに満ちている』

Shin1

ある老人ホームの朝の集会室。「ジャガイモの種芋を植え付けましょう」と呼びかけたら8人の方が集まってこられた。種芋はどれも赤黒い芽を付けている。芽が出やすいように芋を切ってくださいと声をかけると、われ先にと包丁を握って、芽を見つめるまなざしは真剣そのもの。日頃は気が合わず口げんかの絶えない人達も、この時ばかりは芋しか見てないからもめることもない。

この方々と野菜や花を育てるようになって10年。ひょんなことから「園芸療法」というのを知り、学んでからのこと。病気やさまざまの障碍と共に暮らす生活を草花や野菜たちがどんなに豊かに支えてくれるかを見せていただいてきた。「統合失調症になって家庭にいられなくなった」、「家族に虐待を受けた」、「トラブルに巻き込まれて全財産を失った」等々、会話の端々に、頼るべきもの、支えを失ってここにたどり着いた、お一人おひとりの人生が顔を出す。

「先月の園芸の時間に蒔いた芝の芽がまだ出ない。隣の人のは出たのに。わたしのは全然生えない」と怒り出した女性は、この活動の10年変わらないメンバー。収穫の時を楽しみにし過ぎて、しばしば一足先に味見してしまい、他のメンバーを怒らせる。
小さないざこざはありつつも、種が芽を出し、花を咲かせ、実をつける、そうした植物の営みが、お一人おひとりにあたりまえの暮らしのよろこびを運んでくれる。

園芸療法の先生から聞いた種の話が心に残っている。「小さい種は、一粒ポツンと蒔くより2、3粒一緒に蒔く方が芽が出やすいんですよ」。わたしたち人間も神様に蒔いていただいた小さな種のようなものだろう。ポツンと埋もれて芽が出ないと焦る、隣でも、そのまた隣でも、似たような種が埋もれている。しかし、互いにぬくもりを感じ合えれば、こわばった心が和らいで、少しずつ伸びる芽が見えてくるに違いない。本当に祈り合う人たちに出会った今、そう信じられるようになった。

「地は主の恵みに満ちている」(詩編33:5)
「どんな願い事であれ、あなたがたのうち二人が地上で心を一つにして求めるなら、わたしの天の父はそれをかなえてくださる」(マタイ18:19)

by おたね

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